「それに、今はその人と同じくらい、テニスも好きだしな!」
照れ隠しのつもりなのか、先輩は私から目を逸らして、頭を掻きながら言った。
私も真っ赤な顔を見られたくなくて、下を向いて「そうですか」とだけ呟いた。
先輩に届いたかどうかは、わからないけど。
「あ、あそこにいんの、部長じゃん!」
先輩が突然大声を出すもんだから、心臓が停まりそうになる。
言われるがままに視線をテニスコートに移すと、さっきと変わらずサーブを打ち続ける将兄の姿があった。
「俺、ちょっと行ってくる!
お前も来るか?」
「いえ、私は良いです……」
普段なら行ってたかもしれないけど、今日はなんだか顔を合わせづらい。
何話していいか、わかんないし。
そう思って断ると、先輩は「そっか」と言って、出口に向かって走りだした。
「午後の授業ちゃんと出ろよー!」
という言葉だけ残して。
「……そろそろ戻ろう」
私も振り返って、出口に向かって歩きだした。
屋上から見えた最後の景色は、テニスコートに辿り着いた駿河先輩が、将兄に笑顔で話し掛ける姿だった。
.