「そういうわけじゃねーよ(笑)
その人には今でも憧れてるし、その人以上の人はいないって、心から思ってる」
先輩は恥ずかしそうに笑った。
……知らなかった。
こういう表情もするんだ。
テニスが上手くて、部活のムードメーカーで、老若男女みんなから愛されてる人。
そんな先輩に、自信を持って「自分の憧れだ」なんて言わせる人は、どんな人なのかな。
「だから…上手く言えねぇけど……
追い掛けるだけじゃ、ダメだと思った。
振り向かせるためには、その人に追い付いて、追い越すしかないってわかったんだ」
ギュッ、と、音がするほど強く拳を握り締めた先輩。
真剣さが私にも伝わってきて、思わずゴクリと息を飲んだ。
「じゃあ、その人を追い越すために……」
「そう、毎日猛練習した。
朝練も絶対休まないようにしたし、家に帰ってからもひたすら体鍛えたし、貴重な休みも全部特訓に費やした」
「すご………」
“凄い”。
ありふれた言葉だけど、今の彼にはその言葉しか当てはまらない。
「テニスでその人に勝って、俺のことを認めてもらう。
それが、俺の当分の目標!」
キッパリ言い切ると、先輩の顔がいつもの笑顔に戻った。
……………目標、か。
なんか、羨ましいな。
でも………
「辛く、ないんですか?」
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