この胸いっぱいの愛を。




「先輩は、何歳くらいの時にテニス始めたんですか?」

私は風で靡(なび)く髪を手で押さえ付けながら、隣で大の字に寝転がっている先輩に尋ねた。


「俺?んーとね、12歳の時!」


えっ?

12歳って………


「ここのテニス部に入るまで、ラケットなんて一度も握ったことねーし」

先輩は勢いよく起き上がって、大きく伸びをした。

少しパーマが掛かった赤に近い茶髪が、強い風に吹かれてサワサワと揺れる。


「え、じゃあなんで……」


───あんなに強いんですか?




「へっ?」

ヤバい、ストレートに聞き過ぎた!?


先輩は私の質問が予想外だったのか、目を大きく見開いて聞き返してきた。






「す、すいません、私「俺さぁ、」

即座に謝ろうとしたけど、先輩は私の言葉を遮って話し始めた。




「どうしても、振り向かせたい人がいるんだ」

そう言った先輩の目は、いつになく真剣で。

私は相槌を打つことすらできずに、黙って先輩が話しだすのを待った。




「俺、その人にすっげー憧れててさ。
 ずっと、その人の背中を追っ掛けてた。


 ……でも、違うってことに気付いた。」

「…………え?」


先輩の言ってることが、よくわからない。

その人を追い掛けるのは、間違ってたってこと?




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