そして今、桃香が俺の部屋に来ている。
俺のベッドに座って、鼻歌を歌っている。
彼女に、俺の心臓の音が聞こえているかもしれない。
そんなことを考えてしまうくらい、
凄い速さで心臓がビートを刻んでいた。
──────………
「……ここまでにするか。
待たせたな、桃…香……」
区切りの良いところまで解いて、
俺はノートを鞄にしまった。
あまり待たせては悪い、と思ったのだが……
「寝てる……のか?」
──そういえば途中から
鼻歌が聞こえなかったな。
待ちくたびれたのか、桃香は俺のベッドに横になって寝ていた。
唯一耳に入ってくるのは、
彼女の寝息だけ。
「……桃香?」
声を掛けてみても、起きる気配はない。
毎日マネージャーの仕事に追われて、
よほど疲れが溜まっていたのだろう。
起こすのも難だし、
しばらくこのまま寝かせておくか。
俺はそう思って、
桃香の近くに腰を下ろした。
起こさないように、ゆっくりと。
熟睡しているのを良いことに、
彼女の顔を覗き込む。
実際の歳よりも幼く見えるその顔は、
初めて会った時の面影を残したままだ。
俺は高鳴る心臓を押さえて、
彼女の髪にそっと触れた。
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