ハッとして、思いとどまる。
(……帰れない)
きっとまだ、彼女さんが家にいる。
突然家を飛び出した私を、変な奴だと思っただろう。
それに……わからない。
祐兄と将兄に、どんな顔して会えば良いのか、ワカラナイ。
今頃、どうしてるのかな。
私のこと、少しは心配してくれてる?
それとも私が出て行ったことなんて忘れて、三人で楽しそうに話してる?
頭がズキズキする。
胸が、灼けるように痛い。
あぁ。
そういえば風邪引いてたっけ、私。
グラリと、景色が歪む。
視界が、世界が、
暗くなっていく。
「おい、どうした?」
朝比奈くんは、私の異変に気づいたみたいだ。
だけどその声を、言葉として認識できない。
何か言っているとわかっても、何を言っているのかわからない。
声を、ただの“音”として聞いているような、不思議な感覚。
――――どうなるのかな、私。
体が、ゆっくりと後ろに倒れていく。
意識が途切れる直前、私の脳裏に一瞬だけ浮かび上がったのは――――……
もう久しく見ていない、
将兄の優しい笑顔だった。
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