――――――――…………
「おいおい、危ねぇじゃ……
ん?」
「す、すみませんっ」
視界が何かに遮られたと思った瞬間、私はコンクリートの地面に尻餅をついていた。
突然過ぎて、痛みすら感じない。
ぶつかった相手は、どうやら男の人のようだった。
座ったままの私の視界に入ったのは、制服のズボンと……
テニスバッグ。
「…………」
一瞬将兄のことが頭を掠めて、私は慌てて視線を逸らした。
……なんでまた、思い出してるんだろう。
忘れるために、走っていたのに。
地面に打ち付けた体の痛みが、ジワジワと酷くなっていく。
泣きたくなんかないのに、涙で視界が滲む。
頬を流れ落ちそうになった涙を慌てて袖で拭い、再び走り出そうとした……
―――――――その時。
「神田?」
「!?」
その人が、私の名前を呼んだ。
(どうして、私の名前を……)
知ってる人?
それなら余計に、泣いてる所なんて見られたくない。
だけど、その思いも虚しく、私は彼に強い力で腕を掴まれてしまった。
「お前、神田の妹だろ?」
もう、逃げられない。
観念して顔を上げると、そこには……
「……朝比奈、くん?」
見覚えのある人物が、立っていた。
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