〜将一郎side〜




「将くんの家に行ってみたいな〜♪」


彼女……紗耶香先輩がそう言い出したのは、つい最近のことだった。

付き合い始めて早1ヶ月。

未だ、手も繋がない関係。


先輩がそういうことを強要してこないのが、唯一の救いだ。




―――――ゆっくりで良いから。


口癖のように何度もそう言う彼女を見ていると、罪悪感で胸が締め付けられる。


いつかは手を繋いだり、それ以上のことをするのが、当たり前になるのだろうか。


そして、そうなる頃には……


今の気持ちを断ち切って、先輩と真っ直ぐ向き合えているのだろうか。






放課後二人で帰るようになってから、いろいろなことを話した。

部活のことや、クラスのこと。


先輩は終始笑顔で、俺の話を聞いてくれている。

なのに俺は、そんな彼女をいつも桃香と比べてしまう。


――――桃香にこの話をしたら、どんな反応をするだろう。


そんなことばかりを、考えてしまう。




家族の話は、一度もしたことがなかった。


話し出したら、せき止めている想いが……

桃香への想いが溢れ出しそうで、怖かったから。




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