この胸いっぱいの愛を。




 〜駿河side〜


―――――――――…………




神田桃香が立ち去った直後。


「くっそ!」




人通りの少なくなった廊下で、俺は拳を壁に叩きつけた。

骨が折れてもおかしくないくらい、強く。


「なんで……なんでだよ!」




知らない先輩と並んで歩く、部長の姿。


あれが……

あれが、部長の選んだ道なのか。




生半可な気持ちで決断したんじゃない……

何の考えもなしに、好きでもない人と付き合うような人じゃない。

それくらいは、俺にだってわかる。


きっと、自分の気持ちを押し殺すため。

本当に大事な人を、傷つけないため。




苦渋の決断だったに違いない。


けど…………






「部長…………
 やっぱり馬鹿だよ、アンタは」


さっきまで隣にいた彼女の、泣き顔を思い出す。




……俺は、知ってる。


部長が、彼女にしか見せない表情があることを。

彼女の全てを包み込むような、あの優しい笑顔を。






「好きな女、泣かせてんじゃねーよ―――――……」




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