「……あのっ」
「ん?」
「私、もう大丈夫ですから」
いつの間にか、涙は乾いていた。
ぎこちなく微笑むと、先輩も微笑み返してくれた。
「……そろそろ、行かなきゃ」
腕時計の針が、始業時間の直前を指している。
「おいおい、ホントに大丈夫かぁ?
目、めっちゃ腫れてるけど」
「えっ」
触ってもわかるはずないのに、反射的に瞼に触れた。
その行動を見ていた先輩が、口を押さえて小さく吹き出す。
「プッ……冗談だよ、ジョーダン!
お前、騙されやす過ぎ(笑)」
「……もぅっ!!
焦らせないでくださいよ!」
どうやって誤魔化そうかとか、健吾とアユに何て言い訳するかとか色々考えちゃったじゃん!
………でも、不思議だ。
駿河先輩といると、知らず知らずの内に、笑顔になってる自分がいる。
心が芯から温まっていくような、優しい気持ちになれる。
「ほら、遅刻すんぞ!」
「先輩は行かなくて良いんですか?」
チャイムが鳴るまで、あと二分ほどしかない。
「俺は一服してから行くから♪」
「一服って……」
タバコじゃあるまいし(笑)
「では、また部活で!」
「おうっ!」
未だ壁にもたれ掛かっている先輩に、軽く会釈をして。
私は教室に続く階段を、駆け上った。
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