「……あの「彼女のことなら知ってる」
「え………」
それはまさに、今私が聞こうとしていたことの答えだった。
雑踏の中、先輩の寂しそうな声だけが、私の脳内に反響する。
――――この前の様子では、先輩は将兄に好きな人がいることを知っているようだった。
だから、多少の覚悟はしていたのかもしれない。
…………それでも。
並んで歩く二人を窓越しに見つめる先輩の表情は、苦しそうで。
少し怒っているようにも、見えて。
私はそんな先輩を見ていられなくて、彼から視線を外した。
“綺麗な人”。
彼女を見た瞬間、そう思った。
少なくとも将兄に引けを取らないくらいには、華のある人。
………将兄があの人を好きになるのが、なんとなくだけどわかるような気がした。
彼女といる時の将兄は、どんな風に笑うんだろう。
どんなことを、話すんだろう。
そんなことを考えている自分が、たまらなく嫌になった。
……私は、ただの“妹”なのに。
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