この胸いっぱいの愛を。




それからどうやって家まで帰ったのか、よく覚えていない。

気が付いたら家のリビングに居て、電気も点けずに無心のまま座っていた。


しかし、冷静になって考えれば考えるほど……

ショックを受けている自分が、情けなく思えてくる。




──────わかってたはずじゃないか。

桃香がいつか俺の元を離れて、遠くへ行ってしまうこと。

俺ではない誰かのものに、なってしまうこと。

そして、俺にはそれを止める権利なんて微塵もないことも。


わかっていたはずなのに、それが現実になったことが、たまらなく辛い。

覚悟はしていたが、まさかこんなにも早く、現実になるとは思ってもみなかった。


しかも、相手は、俺によく話し掛けてくる、気さくな後輩。

あいつとは一年以上の付き合いで、俺にとって弟のような存在だ。

……だから、恨むことなんてとてもじゃないができない。




そういえば、桃香は前に言っていたな。

駿河のことが苦手だ、と。


どうやら桃香の言っていた“苦手”は、俺が考えていたものと全く別物だったらしい。




「そういう、ことか」


俺は、自嘲気味に笑った。

笑うしか、なかった。




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