この胸いっぱいの愛を。






「将兄………?」


暗闇に佇んでいたのは、泥棒でも幽霊でもなかった。

だけど、ホッとしたのも束の間。


いつもと明らかに様子が違う将兄に、私は驚きの色を隠せない。




「どうしたの?
 電気も点けないで……」


いつもの真剣な眼差しはどこへやら。

将兄は私が話し掛けても上の空で、ボーッと遠くを見つめている。

どうしちゃったんだろう……。

もしかして、具合悪いのかな?


私はおもむろに近付くと、将兄の額にそっと手をあてようとした。

しかし………











バシッ




「!!」


触れるか触れないかのところで、その手は思い切り振り払われてしまう。

私は唖然として将兄を見つめた。

悲しいとかじゃなくて、沸き上がってくるのは驚きと疑問だけ。




………私、何か悪いことした?


帰りが遅かったから、怒ってるの?


聞こうにも聞けずに、その言葉を飲み込んだ。

将兄の顔には、まるで生気がない。

普段からは考えられないくらい、虚ろな目をしている。






「すまん……」


将兄は無表情のままそう呟くと、私に背を向けて二階に上がっていた。


「どうして……?」


泣きそうになったけど、必死で堪えた。


見慣れた後ろ姿が、涙で滲んでいた。




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