この胸いっぱいの愛を。




ななな、なんで!?


確かに将兄は世間一般的な中三より大人っぽいし、頼りになるし……


で、でも、お父さんって……。




「あの日、あんな形で出会ってなければ……
 俺はテニス部に入ることもなかったかもしれない」


……やっぱり、先輩がテニス部に入ったのは将兄の影響なんだ。


将兄のプレイに憧れて、入部したのかな?

それとも、全く違う理由で?


お父さんみたいな存在ってことは……

やっぱり、テニスは無関係?




いろんな考えが、頭の中を駆け巡る。


私は思考を巡らせながらも、先輩の横顔をボンヤリと見つめていた。

本当に、いつ見ても端正な顔つきだ。

好きじゃなくても、ついつい見惚れてしまうような、そんな魅力がある。


テニスをしてる姿は誰が見ても“カッコ良い”としか言い様がなくて……

でも、笑った顔は無邪気な少年そのもの。


そんな駿河先輩が、あの“鬼”と称される無愛想で堅物な将兄に恋をしてるなんて……

将兄の背中を必死に追い掛けているなんて、誰が想像するだろう。


きっと、誰一人としてこんな考えには至らないだろうと、そう思った。






「あれは忘れもしない、入学式の日……」


駿河先輩は、ゆっくりと語り始めた。

その表情は、“恋する乙女”ならぬ、“恋する好青年”そのものだった。




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