「部長が心配してるだろうから、早めに家に帰るんだぞ?」
先輩はお母さんみたいなことを言って、私の頭をクシャクシャと撫でた。
どうしよう………
質問するタイミングを完全に失ってしまった。
「じゃ、俺もそろそろ戻るわ!」
額の汗をリストバンドで拭うと、先輩は私に背を向けて走りだした。
…………なんのためにここまで来たんだろ、私。
将兄に嘘までついて、運良く駿河先輩に会えたのに……
結局何も聞かずに、帰るの?
……駿河先輩の背中が、どんどん遠ざかっていく。
その姿が、今にも闇に溶けていってしまいそうな気がして……
「駿河先輩!!」
私はその背中に、思わず声をかけていた。
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