水沼家の次男、
清
との最低な出会いからほぼひと月。
春休みの間中、
私はほとんど毎日のように雅と会うか、電話をしていた。
話の内容といえば、ほとんどが、清への文句だ。
なぜって、あいつは私に会うたび、
バカ、だの
ブス、だの
ガキ、だの
むかつく言葉を吐き捨てて去っていくのだ。
私が無視しようとしても、
あいつの方が一枚上手で、
気づくと、むこうのペースになってしまい、
私が一人で地団太を踏む、という繰り返しが続いていた。
母との話し合いも、機会を逸すると
私の勇気が風船のようにしぼんでしまい、
今はとてもそんな気になれなかった。
しかし、あいつ・・清のことを除けば、
水沼家での生活は、想像以上に快適だった。
おじさん
--優一さんは変だし、
お父さんはまだ早いので、
無難にこう呼ぶことになった--
は、仕事が忙しそうだが、
毎朝朝食を一緒にとってくれて、とても話しやすいし、
心さんは、家の周りを案内してくれたり、
買い物に付き合ってくれたり、
--家具の買い替えは遠慮したけど--
こちらが気を使わないようにしながら、
細やかに気を配ってくれる。
範君は、部活で忙しいらしく
--サッカー部のキャプテンだそう--
朝も早くから家を出て、夜も帰りが遅いので、
一緒に食事をすることはめったにないが、
会えば照れたように、挨拶をしてくれるし、
時々は好きな音楽のことで盛り上がったりもした。
お手伝いの香(かおり)さん
--お手伝い!!
さすが金持ちといおうか、
ちょうど心さんが生まれる前に、つわりで、家事が大変だからと雇われ、
以来20年以上、昼間だけこの家で働いてるんだそうだ--
は、4人の男の子がいるらしく、母より少し年上だ。
肝っ玉母さんといった風情で、
あっという間に母とも私とも仲良しになった。
とても、快適だ。
・・・表面上は。