手を振りながら走ってくる馬鹿が目に飛び込んできた。
「ごめんね!白羽壱流!あ、まだ七時まで三十秒あったっ!ぎりぎりだー…」
「おい…」
「間に合うように来たつもりだったんだけど!道がわかんなくなっちゃって!!」
「おま…」
「だからごめんってば!かなり待ったよね?三月の夜は冷えるし」
「いや、じゃなくて…」
「今日は何でも奢るからっ!あ、でも良心的な値段ねっ」
我慢の糸がぷちり、と切れ馬鹿をにらむ。
「お前な、どこに芸能人の名前叫びながら走ってくる芸能人がいんだよ!」
週刊誌に載りたいのか!?だからんな馬鹿なことすんのか!?こいつは!
「ドラマ共演で熱愛とかよくあるよね!」
洒落になんねぇよ!と怒鳴るのは抑える。
この馬鹿、ばばぁより質悪ぃ。
「……腹へったから、さっさと中入るぞ」
これ以上話しても埒があかねぇ。
「やっと喋ったね白羽壱流」
「は?」
「だって前あたしが喋ったとき、は?とかあぁ、とかしか言わなかったじゃん」
「……」
「無口王でも目指してんのかってぐらい喋らなかったよねー」
進歩進歩、と言いながら先に店に入る馬鹿を呆然と見る。
何…なんだよ、あいつ。