…なんだ、あいつ。
最初に撮り始めるのはあいつが先だった為、イスに座り見ていることにした。
一番最初の場面。
美音が涙を流すシーン。
場所は現場である病院の屋上。
…こっから始まんだな。
笑顔で秋山さんと話してるあいつ。
あれでいきなり、泣けんのかよ?
秋山さんがあいつから離れ、「このシーンは一発でいくよー!」と叫んだ。
いよいよ……あいつのが始まる。
スタッフも、他の出演者も、利央たちも皆息をひそめた。
……それは、一瞬の出来事だった。
─ガシャンっ!!
屋上のフェンスに手をかけ、空を見つめて。
鳥が二羽、空を悠々と飛んでる姿に手を伸ばし。
あいつは一筋の涙を流した。
一分もないシーン。
一言も喋らず。
存在に圧倒された。
「や…べぇ…」
晴翔が言葉を漏らし、琉飛も黙ってあいつを見つめ、利央は目を丸くしていた。
一瞬…だった。
一瞬で空気が変わった。
今、俺たちの目の前にいるのは。
"歌声"という名の翼を失った。
鳥の少女、《笠置美音》だった。

