あいつは、取材があるからと言って急ぎ足プラス笑顔で帰っていった。


綺麗な画だった、と現場にいる人全員が拍手した、その撮影のあとに俺は隠れるように楽屋に向かった。



なんだ、これ。



撮影だって上手くいった。

しかも、拍手喝采とクランクアップ顔負けの盛り上がりよう。


なのに、ざわついた胸は、止まらない。


携帯のライトが光って、通話ボタンを押す。ざわつきは収まらない。


『…壱流?』


あんなキスシーン。


「…琉」


はじめてだ。



あいつと出逢って結構経つのに。

初めてのあいつが多すぎた。



「…んだよ、これ」

『ふふ、壱流、仲直りできた?』


潤んだ瞳。

キスをして閉じる瞼。

伏せた睫毛。


唇の柔らかさにあったかさ。



「…琉に言いたいこと、かなりあるけど」

『けど?』

「この爆弾のが、キツいから今回だけは見逃してやる」

『壱流からかうの…楽しいのに…、で、爆弾って…なに?』



あんなガキみてぇなキス、公私共に慣れてんのに。



「…なんなんだよ」



あいつがキスしたのは、“祐樹”かもしんねぇけど。




──…壱流に彼女とか、寂しかったんだもん。




俺は、白羽壱流として、高崎光にキスをした。