壱流に言われた言葉の意味が分からなくて、うんうん唸ってるあたしに構わず撮影は進んでく。
美音と祐樹が結ばれる、このシーンは本読みの時から気に入っていた。
「では、本番いきまーす!」
美音、貴女の宝物みたいな存在が出来るんだよ。
眼を開けたら、そこは、高崎光の世界じゃない。…笠置美音の世界。
「“祐樹”」
「ひか…」
壱流、とは呼ばない。だって、美音が恋してるのは壱流じゃない。
キスの間に他の相手を思い浮かべるなんて、ダメだもんね。
「…敵わねえな」
苦笑するかのような壱流に向ける笑顔は、美音の笑顔。
溢れる朝日。
白いベッドの上。
ピ、ピとなる医療機器。
そんな静かな空間で。
「“美音”」
あたしたちは、涙味のキスをした。
でも、ね、壱流。
ひとつだけ、美音失格なこと思っちゃったんだ。
周りのセットも目の前にいる壱流もあたし自身も完璧に美音の世界だったのに。
壱流から香るかおりが。
抱き締められた時に移ったのか、あたしから香るかおりが。
一瞬だけ、あたしをあたしにしちゃって。
キスをして、目を閉じる寸前だけだけど。
あたしは、白羽壱流にキスしちゃったんだよ。