抱き締められてたままという、何だか意味が分からない体勢のままお互いの誤解を解いた。


結局、壱流はあの女優さんと付き合ってなんかなくて、つ…付きまとわれてた、だけみたいだった。
なんだ、…そうだったんだ。


「元はと言えばお前が早とちりしてなきゃ良かったんだろ」

「だって…っ!!」

「そんなに、ショックだったのかよ?」



意地悪そうに笑い、あたしの顔を覗く壱流は悪魔だ。


「だって、壱流に彼女とか、寂しかったんだもん!!」

「は」

「仕方ないじゃんっ!壱流がキレーなおねーさんとイチャイチャ、寂しかったの!!」

「お…まえ、それ、どうゆ…」


やっと拘束を解いてくれて、驚いたような壱流があたしに手を伸ばした瞬間。


「壱流くん、光ちゃん、お願いしまーす!」

「……」

「あ、はい!!」



スタッフさんが来て、ついに撮影が始まる準備が出来たみたいだった。


壱流はまだ、よく分からない複雑な顔をしていた。


「壱流?」

「一緒じゃねえよ」

「え?」


いっつも、あたしに主語がないだのどーとか言うの壱流さんですよね?


「お前は…光は違う」

「だから、何と?」

「キスシーンだって、俺は高崎光と演じる」

「……?」



真面目な真剣な目が、あたしだけを映した。



「お前は、違ぇよ。お前は…特別」