コーヒーの芳ばしい香りが鼻をくすぐって、自然と瞼を持ち上げた。



視界に広がるのは、いつもと違う天井。

少し寝惚けたまま、視線を横に移すと光がいなかった。


そのことを認識したら、急に目が覚めて起き上がる。



「光っ!?」



隣に感じる温もりと微かに香る光のシャンプー。

だけど、肝心なあいつ自身がいない。




「ひか…っ」

「あ、壱流!起きた?」



柄にもなく叫んだあとに、いつもと同じ笑顔で部屋に入ってきた光にムカついて枕を投げつけた俺は悪くない、はず。









「は…鼻が痛いっす!壱流さん」


クロワッサンにコーヒー。スクランブルエッグにサラダにコーンスープ。マッシュドポテトにオレンジとグレープ。


ダイニングテーブルに並ぶ朝ごはんに軽く驚いたけど、調子乗った光は面倒だから何も言わなかった。



「赤っ鼻になって、次のクールにトナカイ役でもやればいいじゃねえかよ」

「夏なのに!?」


突っ込むところ違くね?



「…朝、ね?目が覚めたら壱流が隣で寝ててくれて嬉しかった」


照れたように顔を染めて、はにかみ笑いを溢す。



「だから、せめてもの…お礼っ!あたしには、…朝ごはん作るとかしか出来ないから」