早歩きで、その部屋の前へと向かった。
「光」
聞こえる、浅い息遣い。
伝わる、あいつの痛み。
「光」
再度、呼び掛けるとドアの向こうで身動きしたのか気配が揺れた。
俺は、おもむろに携帯を取り出し操作する。
──ブ、ブブ。
響く振動音。押される通話ボタン。繋がる……あいつと俺。
「もしもし?」
『…もし…もし』
涙に濡れた震えた声に握った拳に力を入れる。
『あの…ねっ?今、すっぴんだからメイクしなきゃ…っ!』
「………」
『メ…メイクしなきゃだからっ、今…っていうかしばらく出られないの!』
「………」
『こ…こんなすっぴんじゃ、会えないもんねー…っ』
いっつも、すっぴんで涎垂らしながら楽屋で寝てるくせに。
「光」
『……っ』
「いいから」
一人で泣かせないために、ここに来たんだ。
それとも……、俺に泣き顔なんか見せたくねえの?

