「ちげえよ、半音ずれてる」
「うえええっ!?まじですか!」
ボイトレのお陰か、音程はなかなかだけど、あとは……。
「声量…だな。恥ずかしがったりしてんじゃねえよ」
「だだだだだって!」
どうすっかな…、と水を口に含んで馬鹿を一瞥。
練習し始めて、早四時間。日付もとうに越えていた。
「いちる、ここ歌ってみて」
指された楽章を見、片足でリズムを取りながら軽く歌う。
広がる、世界観。
歌い終わって、馬鹿を見ると
「は?」
何故か泣いていた。
「は?なに、お前、今泣くポイントがわかんねえんだけど」
こいつの涙は、俺は苦手だから戸惑って仕方無く顔を覗き込んだ。
「いちるの世界が…っ」
「は?」
「見えた……気がしたの」
そう言って顔を上げて、涙で濡れた瞳で笑うから。
柄にもなく心臓を掴まれたような感覚に陥る。
「歌の世界が…見えたよ」
ムカつく。なんで、こんなに。
「……そうかよ」
焦らなくちゃ、いけねえの?