「だから、ありがとう」と微笑む馬鹿。


俺は顔を背け、「ちげーよ」と一言。



「お前のこと……なんか、心配してねぇし」

「うん」


まだ微笑む馬鹿に余裕が消える。



「だから…っ」

「もー、わかったってばー」


わかってねぇ顔のまま桜の木を見上げる姿は。



「…綺麗だね」



いつもと少し違う雰囲気を感じさせる。




その横顔を見ていると朝感じていたあの得体の知れない焦燥感は消えていく。



やっぱり熱愛なんか嘘。



馬鹿はまだ誰のものでもねぇ。



「いち……っ」

「うっせ、黙っとけ」



抱き締めた身体から伝わる体温に少しだけ心臓が震えた。



「……まじ、俺のこと振り回す羊とか何様だよ」

「あ……あたし様?じゃなくて!いちる離してーっ」

「おめーの言うことなんか誰が聞くかよ」



獲物は獲物らしく。



「……ほんとうざい…」



俺に食べられんの待っとけ。