『どう…って…』
戸惑うように小さくなる馬鹿の声。
思わず携帯を強く握り直した。
「おま…、あれ、まじ?」
黒いもやもやとしたうざったいのが心のなかに燻りはじめた。
「……おい」
『あのねっ、いちる!!
─バンッ
光!電話は今はやめなさいって言ったでしょ!!
ちが、松井さん!ちょっとま…』
あとに聞こえたのは虚しい電子音。
「……まじかよ」
あの反応からすると、ずっと頭の中にあった熱愛な訳ないという思いがことごとく崩される。
「……熱愛って…なんだよ」
ぽつり、と呟いても何の意味も為さなかった。
再び鳴る携帯。ディスプレイにはマネージャーの文字。
この正体不明の黒いものに飲み込まれてしまいそうな感覚に陥る。
あの時。
この瞳に次に映るのは俺だ。
そう思ってた。
すぐ落として。
俺に夢中にさせてやろうと思ってた。
俺は馬鹿には本気になんかならなくて、馬鹿にだけ本気にならせる。
そんな予定だったのに。
「…意味…わかんね…」
さっきまで青い空が広がっていたのに、いつのまにか厚い雲がすべてを覆い隠していた。

