あの人じゃ、ない。

待ちわびてるあのメロディーじゃあ、ない。


誰?


話しなんか、する気になれない。

なのに、手がつい、いつものクセでバッグを漁り、通話ボタンを押してしまう。
もはや習性じみたその動きが、我ながら恨めしい。



「あ、チサちゃん?」


響いてきたのは、知らない男の声。


「オレオレ。覚えてないかな~、サークルの飲みで一緒だったユウヤ」


軽薄そうな声に聞き覚えはない。けれど、名前はたしかに覚えてる。