タラップを登り始めた彼の、呆気にとられた表情が見える。

助けを求めるアタシの視線は、残念ながら、突然のことに驚いている程度に見えるらしい。


「お客様さん、乗らないの?」


ドア横のスピーカーを通した運転手の問いかけに、


「乗らない」


すかさず、背後からユウヤが答えた。


気付かれないまま逃げ切れると思ったのに……。


激しく怒った雰囲気のユウヤに、アタシは怯え、混乱し、ただただ、車内に消えた彼の姿を探し求めた。


調子のいい話しだけれど、今すがれるのは彼しか、いない。


プシュー


先程と同じ音を立ててドアがしまった。


走り去って行くバスの窓から、無表情で立ち尽くす彼の顔がチラリと見えた。
怒りとも、嫉妬とも、呆れているとも思える、その顔。


助けて……。


転んだまま凍りついたアタシは、バスのテールランプが消えて行くのを、ただ茫然と見送った。