「…陽路先輩、いつもに増して何か変ですね?」
「んー?」
ぼけっとしながらスコアを書いていたあたしに、雅樹はいつの間に近づいて来ていたのか、あたしにしか聞こえないような声で小さくささやいた。
…それにしても。
相変わらず、つかみどころのないヤツだ。
誰にも気づかれること無いように過ごしていたつもりだったのに。雅樹には何故だか異変が伝わっていたらしい。
しかも、いつもに増してって……
「また何か、あったんですか?」
「…ないよ。だから、練習戻りな。」
まだ明らかに納得してないようだったけれど、あたしがこれ以上話す気はないと悟ったのか、渋々もといた位置に戻る雅樹の背中を見つめる。
ホントに、何にもないんだ。
今の時点ならまだ、気持ちの持ちようで改善できる。
――だって。
ただ最近頻繁に、忘れるべき過去が頭の中にちらついてしまうだけ。
忘れたくないというように、夢にまで見てしまうだけ…。