「うーん…。私ね、基本マネの子の名前しかちゃんと覚えてなくて。その子が誰とはわかんないんだけど…。でも確か、あなたと同じジャージを着ていたと思う。」

「…そう、ですか。」


それだけわかれば、十分に確信を持てる。
きっと、イヤ、確実に“不機嫌な子”の正体は寿也だろう。間違いなく寿也は、あのときのあたしと慈郎の話を聞いたか、状況を見たかしたんだ。だから佐伯さんに印象を残すような、そんな表情を浮かべていたに違いない。


「…何か、悪いこと言っちゃったかしら?」


あたしはあからさまに暗い表情を浮かべていたんだろう。申し訳なさそうに佐伯さんの眉が下がる。

でも別に悪くないし、むしろ聞けてよかった。あとで寿也と話す必要はありそうだけど。「そんなことないです。」と返し、あたしは不安を悟られないように作業を再開した。