「変わったことではないけど、お昼休みに、スゴく不機嫌な子がいたの。」

「不機嫌な子……?」

「ええ。二階に行ったと思ったらすぐ下りてきて、ずっとここにシワ寄せてるの。」


そう言って佐伯さんは、右手の人差し指で自分の眉間を指す。そして思いっきりしかめっ面をしてみせた。


「こんな風に怖い顔してたんだけど、どこか悲しそうだったから印象に残ってるのよねー。」


…誰?
お昼休みってことは、あたしが慈郎と話してた頃……?

背筋に、嫌な汗が伝う。だって、もし仮にそれが寿也で、あの状況を見てしまったとしたら…。佐伯さんが言っていた“不機嫌な子”の話と、あたしの想像がつながっていく。妙に冴えた頭のおかげで、急に不安が押し寄せた。


「…それ、誰かわかりません?」


心なしか震える声。
イヤな汗が、額にも滲む。