でもその沈黙を破ったのは、他でも無い藍前の一言だった。


「…クセがあるかどうかはわかんないんスけど、俺、一回だけ見たことあるッス。」


放たれた言葉に、一同の視線が藍前に集まる。


「俺たち、実は幼なじみなんすよ。で、近くに陽路と同い年の男の子もいて、よく一緒に遊んでて…。」


広いホールに、藍前の声だけがただ響く。
それにしても、陽路ちゃんと藍前って幼なじみだったんだ…。俺、今考えると陽路ちゃんのこと、何にも知らないや。


「でもその子持病抱えてて、ある日いきなり、俺たちの前からいなくなったんスよ。もう、二度と会えない。」


…え?二度と会えない、だなんて。
もしかしてその子、死んだってこと?
でもその言葉で、陽路ちゃんが大切な人を失うことを極端に恐れる理由が納得できた。彼女は昔、そういう経験をしてきていたんだね。