気を引き締める俺に反して、部屋からは物音一つ聞こえない。完璧にドアが閉まってオートロックがかかるのを防ぐため、スリッパを挟まれたドアの向こうは、あまりにも静かだった。

「あれ?」と呟いた村田部長がゆっくりとドアを開けると、静かな寝息をたてた陽路先輩がベッドに横になっているのが目に映る。はぁっとため息を零すと、村田部長は俺に向き直った。


「今は無理そうだ。無理に起こすことはないだろう。またあとで来ようか。」


確かに、無理に起こすことはない。村田部長の言葉に、俺が反対する理由もなかった。
視線は村田部長を通り越し、もう一度陽路先輩の姿をとらえる。

あとで絶対今度こそ、自分の気持ちをちゃんと伝える、そう決意するとともに頷くと、村田部長はドアを閉め、俺たちは部屋に背を向けた。