「…寿也、落ち着け。うるさいと思ってるなら、構わなければいいだけの話しだ。今は練習中だということを忘れるな。」

「あ、はい…。」


イライラして無意識のうちにラケットを持つ手を震わせていた俺に、沢柳先輩の喝が飛ぶ。
今は練習中…。集中しなきゃいけねぇんだ。


「…よし。今日の練習時間は残り少ない。だから普段組んだことのない人とダブルスを組んでみて、軽く打ち合って終わりにしようと思う。」


オレンジ色に染まりかけたコートの中に、塚本さんの声が響く。
…ってかダブルスか。俺は元々シングルスのプレイヤーだし、ダブルスは沢柳先輩としか組んだことねぇし。ハッキリ言って苦手なんだよな…。他人に合わせるとか、そういうガラじゃねぇからさ。

だからそっと隣の沢柳先輩の方を窺ってみると、先輩は早くも辺りを見回し、ペアの相手を探しているようだった。