「さすがにないだろうけど、忘れ物しないで降りてよ。」


下車の際、一応マネとして注意を促す。
高校生なんだから、そのくらいはちゃんとできるだろうけど、多少心配が無い訳でも無いからね。


「…陽路先輩。」

「ん?」


立ち上がり、ぞくぞくとみんなが下車していく背中を見ていると、隣にいた寿也に突然名前を呼ばれて。どうしたのか不審に思い、座ったままの寿也の方に目線を下げた。その目線に気がついたのか、うつむいていた寿也はゆっくりと話し始める。


「俺、さっき嘘つきました。ヘコまないなんて嘘です。ホントはスッゲェ怖ぇ。陽路先輩がまた、阿久津先輩の方に行っちゃいそうで、聞かなきゃよかったって後悔してるんスよ。ハハ…。俺、超バカみてぇ。」


それだけ言うと、寿也は自分のスポーツバックを背負って、まるであたしから離れていこうとするようにバスを降りていく。

でもそれより、心に響いた寿也の言葉…。
その言葉にあたしは、自分の気持ちがよくわからなくなっていた。