振り向いた彼の顔に浮かぶ、怒りを孕んだ冷たい表情…。あたしが好きな阿久津の笑顔なんて微塵も感じさせないその表情に、嫌な汗が背中を伝う。沈黙が、気持ちが悪いほどあたしたちを包みこんで。あたしは、自分の笑顔が引きつっていくのを感じた。


「…美香を、信じてよ。」


何も発さない阿久津に、あたしはそう呟く。思いのほか声が震え、掠れていたことに、自分でも驚いた。


「前にも言ったでしょ。俺は、秋田先輩が何言っても信じないって。ハッキリ言って俺、秋田先輩のこと大嫌いなんだ。」


そう言い放ち、呆然とするあたしににこりとほほえんだ阿久津。…っていうか今、あたし何て言われた?

 《秋田先輩のこと大嫌いなんだ。》

その言葉だけが頭にリピートされる。今まで言われたことのない言葉、好きな人に初めて嫌われた瞬間…。

もちろん生じた憎悪の矛先は、全て陽路に向けられる。絶対、許せない。