「美香ちゃんって、可愛いだけじゃなく優しいのなー。」


突然、美香の右隣の席である松原賢人が口を挟みだし始めて。あたしは伏せた顔を上げぬまま、嫌でも耳に届く雑音に、そっと耳を傾ける。


「優しくなんかないよぉ。」

「いやいやいや。自分いじめてる奴のことをそんな風に庇うなんてスゴくね?」


謙遜する美香を、さらにほめる松原。
「な?」と周囲の女子に同意を求め、「そうだよ!」とか「スゴいってば。」などという会話が交わされる。

ってか、だからあたし、いじめてないんだって。それ以前に、仕事の押しつけだってしてないから。

だけどどうせ今の状況じゃ誰もあたしなんて信じないのは、さっきまでの会話で十分承知済み。

にぎやかな笑い声の横であたしは独り、変わりゆく日常を直に感じていた。