「ありがとう」 顔は見てないけど文香は多分、頬にえくぼをつくって笑っているんだと思う。 心臓の音が耳に響くというレベルじゃない。 体全体がドクンドクンと振動して、雨や人の声なんかの周りの音が聴こえない。 唯一聴こえるのは 「ユキくん何ボーっとしてるの?早くボタン押さないとお金がおつりのところから出てきちゃうよ?」 文香の声――。 「もう、ユキくん遅い!私が選んであげる!」 「へ?……あ!」 文香が自販機に近づいたからお互いの傘がぶつかり、僕は少しよろけてしまった。