振り向いたたっくんに、何て言えばいいかわからず、
黙って目を合わせた。
その瞬間…
私の左横を何かが 横切る。
―――パッチーン!!
さくらの右手だった。
あまりの早業に、私もたっくんもただ驚くばかりで声も出なかった。
そして、数秒の沈黙の後…
私は可笑しくて笑い出した。
さすがに、たっくんは引きつった顔をしていたけれど、なんとか作り笑顔でさくらの肩を叩いた。
「すみません……私、ほんと、ごめんなさい。気付いたらもう手が…」
さくらはペコペコと頭を下げながら、自分の右手を左手で叩く。
「いいよ。俺が悪かったんだから…ゆかりの代わりに叩いてくれてありがと。」
たっくんは、叩かれた頬を触りながら優しくそう言うと、私に頭を下げた。
「ゆかりも殴って。俺の責任だから…またお前に嫌な想いさせたから…」
私は、一瞬本当に殴ろうかと思ったんだ。
だけど、小鹿のようなくりくりしたたっくんの目を見てると、なぜか抱きしめてしまった。
さくらのおかげだね。
私の代わりに殴ってくれたから、私は殴る代わりにたっくんを優しく包むよ。
たっくんの罪は私の罪。
嫉妬を 違うエネルギーに変えるんだ。
一緒に、罪を償うんだ。
抱きしめた私の横で、さくらは照れ臭そうに笑いながらその場を去った。
「ありがと~!!さくら!」
「こちらこそ、さすがゆかり先輩ですね~、じゃあまた。」
しばらく抱きしめているうちに私の肩に、温かい温度を感じた。
……涙、だった。
たっくんが泣いてる。
とても 小さく見える。
何かに怯えて
自分を責めて
小さく震えるたっくんがいた。