柚羽さんは僕の手を振り払って玄関へと走り、ドアを勢いよく開けた。



「永輝!」



ドアの向こうには、真っ暗な闇だけが広がっていた。

そこに、永輝さんはおろか、誰の姿もなかった。



「柚羽さん……」



遅れて玄関に来た僕は、震える柚羽さんの肩にそっと手を置いた。

柚羽さんは声を押し殺して泣いていた。



「やだ、あたしったら。いくら永輝に会いたいからって……。あたしに会いに来るはずないのにね」

「………」



柚羽さん。

今の僕には、君に気の利いた言葉をかけることができないんだ。

永輝さんが会いに来ることなんて二度とないんだから。


何も知らずに、ドアをノックする幻聴まで聞こえるようになった柚羽さんの姿がとても悲しかった。