【いつきの小説講座】巻ノ弐


どう?

1人称の場合は人物を中心に描写をして、3人称の場合は空間全体をとらえて描写してるのがわかるかしら?

さっきも話した“写実的な感覚”というのは事細かにってことじゃなくて、人物の目に見えていない部分や“実際には感じているはずの感覚”の部分のこと。

例えば




 けれどその日だけはどうしてか室内は薄暗く。

 しかし今、窓から差し込む陽射しが彼女を、そっと包み込んでいた。




の部分。

これ、一見すると1人称でも書いて何の問題もないように思える描写よね。

でもあえて例文では書いてないの。

それはどうしてかっていうと、あくまでこの部分は彼女の“状況を象徴するシーン”に過ぎないから。

つまり『落ち込んでいる』ということを別の形で表現しているってことね。

ちょっと話がわかりにくいかしら。

じゃぁ別の言葉で例えるわね。

1人称で映される場面(地の文)は、すでに『感情のフィルター』がかかってるの。

落ち込んでいるときはなんとなく景色は暗く、その逆も。

だからそんなときに実際の“写真に写された風景”を描写すると違和感があるでしょう?

つまり、彼女にとっては部屋が薄暗いんじゃなくて、気持ちが薄暗いから薄暗いと感じてしまっている。

だから“どうしてか薄暗い”という感覚は、ない。

窓から差し込む陽射しもその後の“彼女を見下ろしている”“青い青い空からのメッセージ”なので、彼女自身には自覚、感じ取ることが出来ない部分。

彼女の今の目に、心に映ったのはあくまでも“窮屈そうな空”。