◆3人称の場合
淹れたての珈琲の熱さに気をつけながらカップに口を近づける少女。
身構えるようにして少し肩をすくめて、おずおずとそれを湯気と共に口にする。
にもかかわらず、
「あひゅい……」
じん、と痛む舌先。
顔をしかめつつカップをテーブルに置き、代わりに化粧ポーチから手鏡を出す。
「あ~あ」
映した舌先はやけどとまではいかなかったけれど、赤くなっていた。
ふっ、と息を吹きかけて珈琲を冷ましてみるものの、それはため息で。
砂糖をいくら溶かしてみたところでそれは意味はなく。
むしろそのため息のせいでほろ苦さだけが増していく。
おもむろに、視線を窓の外に向ける少女。
けっして部屋の日当たりは悪いわけではなかった。
けれどその日だけはどうしてか室内は薄暗く。
しかし今、窓から差し込む陽射しが彼女を、そっと包み込んでいた。
それは青い青い空が、小さな窓から差し伸べたメッセージ。
「……うん」
少女は少し、ほんの少しだけ口の端を上げた。
そして、まだ熱いままの珈琲をテーブルの上に置き去りにして、外に出る。
淡い、春色のピーコートを手にして。
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