「もう故郷の土は踏まない」と。


 そして実際、もうかなり長い間、実家には帰っていない。


 故郷を捨ててしまったあたしは、東京にいながら、都会の空気にすっかり慣れきってしまった。


 あたしはトーストを食べ終わり、付け合せの野菜サラダに箸を付け、スクランブルエッグまで食べてしまってから、


「喬の部屋に行くの初めてだから、どんなところかなってちょっとワクワクしてる」


 と言った。


 おそらく新宿でもかなり辺鄙(へんぴ)な場所にあって、人が少ないところだろう。


 あたしは昔いた新宿の光景を思い出しながら、ゆっくりと息をつく。


 食事し終わったあたしたち二人は立ち上がると、互いに呼吸が合ったらしく、


「行こうか?」


「行きましょ」


 と各々言い合って、ゆっくりと歩き始めた。