あたしはいつ翔太と別れるか、そのタイミングを切り出すのを難しく感じていたし、実際相手が相手だから、相当困難なのである。


 二十七歳の春に、あたしは翔太を六本木の喫茶店に呼んで、辛いと分かっていながらも別れ話を切り出した。


 頼んでいたホットコーヒーを飲みながら、あたしが、


「そろそろ別れない?」


 とストレートに言ってみた。


 翔太が素直に頷くと思って、である。


 彼は案外簡単に、


「うん。いいよ」


 と言って、手元に置いてあったコーヒーのマグカップに一口口を付けた。


 翔太は外科医とあってか、どうやら普段からメスばかり握っている右手を見ながら、


「実はね、俺も君との性生活に飽き始めてたんだ」


 と心の内を正直に告げる。