「でも透と出会って、知らない世界を知ったわ。すごく楽しくて、どこか嬉しくて。そんな世界を教えてくれた透の為に、何でもしたいって思ったの。だから、昴と絶対うまくいってほしいって思ってたわ｣
「…………｣
「昴たちと過ごす時間が増えて、透と同じくらい……昴たちを大切に思うようになったの｣
初めて見た……こんなに、小さな奈々｡
「……翔太を好きか嫌いかって言ったら、どっち？って聞いたわよね｣
「……うん｣
考えてたことないって言った。翔太のことも、翔太と恋愛することも、自分には必要ないって、奈々は言った。
目線を落とし続ける奈々は躊躇いがちに間をおいてから、口を開いた。
「好きよ｣
ジワリと胸に熱さが込み上げる。
「……恋とか愛とか、まだそういうことだとは言えないけど。好きか嫌いかって言ったら、好きよ｣
――奈々。
あたしに、本当の気持ちを話してくれてるんだね。
「……ごめんね透。手に入れた幸せを、失うのが怖かったの。……知らない世界に行くのも、知らない気持ちになるのも、不安で仕方なかっただけなのよ｣
「うん……｣
「私ばっかり、大切に思ってるんじゃないかって。いい加減、透は私に愛想尽かすんじゃないかしらって……。だからワザとひどいこと言ったの。……透のこと信じられなくて、ごめんなさい｣
……違うでしょ。
信じてくれてたから、怖かったんでしょ？ 信じれば信じるほど不安になって、試したんでしょ？
そう言っていいのに。
奈々はすごく強いけど、ちょっと弱いところもあるんだってことくらい、あたし知ってるよ。知ってた。
本当は寂しがり屋なくせに気丈に振る舞って、奈々は強いって、周りにもあたしにも思わせてた。
まるで奈々が自分自身にそう思い込ませるみたいに。
