「彼とちゃんと向き合うのが、怖い?」
「……そうなのかもね」
前は、そんなことはなかったのに。
透と過ごすにつれて、5人で過ごすことが多くなったにつれて、翔太はある意味色んなものを取っ払っていった気がする。
私に対する緊張や、照れや、遠慮なんかがなくなっていった。
お嬢様の仮面を取っ払ったくらいの私なんかとは比較にならないほど、翔太はどんどん自分で私にぶつかってくる。
それが、怖いのかもしれない。
「いいことだね」
「意味が分からないわ」
「奈々が変わることはないのに怖いなんて、向き合おうとしてるってことじゃない? 認めてほしいというか。奈々が自分を貫けないとは……よっぽど彼は前向きで強引なんだね」
翔太が恐ろしいほど前向きだっていうのは身をもって知っているけれど。
別に翔太なんかに認めてほしいなんて思ってないわよ……。
「――奈々? もっともっと、外の世界に目を向けなさい。色んな物事を見て感じて、それを俺に話してよ」
「…………」
「過ぎてしまった時間は戻らないんだよ? ありきたりなことを言うけれど。今を生きなさい、精一杯。悩んで、迷うことは格好悪いことじゃないんだから」
「……でも」
「俺に遠慮することもないんだよ。奈々に自由を望んだのは、他の誰でもなく俺なんだから」
「……頼んでないわよ」
「ははっ! じゃあ、伸び伸びと過ごす妹が笑ってる姿を見たいっていう、兄の願いを叶えてよ」
さっきから何言ってるのよ、兄様。
私を泣かせたいの?
頼んでないわよ。
頼んでないのに、どうして気付くのよ。
私が今どう過ごしたいかなんて話していないのに、蓋をして鍵をかけた感情まで、どうして分かるのよ。



