「透と知り合ってから、奈々は幸せそうだったよね」
「……そうね」
他と違うと感じたのは私だけじゃなかった。周りの人もそう感じていて、だから嫌がらせをされていた。
有名な私立中学だったけれど、生徒全員がお金持ちだというわけではなかったからかしらね。
英才教育の賜物というか、人の上に立てと育てられたからか、こんな性格になって。
まさかこの性格が、周りの人の神経を逆撫でするなんて思わなかったわ。
高飛車とか、金持ちだからって人を見下してるとか言われてたのよね……。もうそんな人たちの顔なんて、忘れてしまったけれど。
透と出逢った時のことはとてもよく、覚えてる。
「透と一緒の高校は楽しい?」
「……ええ。とても」
「だろうね」
兄様は微笑んで、飲み終わったコーヒーを煎れにいった。
……中学3年生の時。透と知り合ってから暫くして、私はサボリ気味だった稽古を全てやめた。
透といると知らなかった世界がたくさん見れたのよね。
理解出来ないことばかりだったけど、楽しくて、どこか嬉しくて。自分の世界の狭さに驚いたの。
兄様はそれに気付いていた。
両親が薦めてきた有名私立のお嬢様高校。そこに入学せず今の高校に入れたのは、他の誰でもなく兄様のおかげだった。



