「奈々の視界を……世界を狭めてしまったのは、この家だからね」
「……兄様の方が大変じゃない」
「俺はいいんだよ。父さんと性格が似てるからね。楽しいよ」
嘘ばっかり……。
長男に生まれたばかりに英才教育を受けて、きっと好きなことなんて何一つ出来なかったに違いないわ。
「奈々には、自由に生きてほしいんだよ。この家に縛られないで、好きな道を進んでほしい」
だからそんなことを言う。
自分が自由に生きられなかったから。好きな道を進めなかったから。私にそんなことを言うんでしょう?
「昔はツラかったろ。バイオリンにバレエに華道に……あと何してたっけ? 語学はやらなかったんだっけ?」
「……ピアノと茶道と舞踊と歌と合気道と経営学に心理学とか色々ね」
「……長女も大変だな」
「兄様もね」
昔の三神家は本当に、英才教育づくしだった。
テーブルマナーやレディーとしての振る舞い。パーティーに行くためにダンスだって覚えたわ。
周りには大人しかいなくて、子供らしい遊びをした覚えがない。
私はこれが普通で当たり前なんだと思っていた。
自分が令嬢であると、分かっていなかった。
だけど違ったのよね。
大きくなるにつれて、周りと自分が違うことに気付いたの。
両親の言うままに私立の中学へ入って、やっぱり私は周りと違うと感じた。それから毎日ある稽古に、嫌気がさすようになった。



