「いるんだろう? 透と他にも、大事な人たちが」
そう微笑んだ兄様の左手には、A4の分厚いファイル。
「……また調べたわね? 最低。信じられない」
「調べたんじゃないよ。奈々の最近を知りたかったから、見て書き止めてただけだよ」
「何が違うのか分からないのだけど」
そもそも最近って量じゃないじゃない。なんなの、その辞書以上の分厚さ。3ヶ月分くらいあるわね?
軽蔑するような眼差しを向けても、兄様はファイルを掲げて微笑むだけ。
「心配なんだよ。なかなか会えないからね」
このシスコン兄……。
どうせそのファイルを奪ってもデータ化してるでしょうから、取り返そうとも思わないけれど。
「俺は嬉しいよ。奈々の視界が拡がってくれて」
「拡がるも何も……」
私が望んで拡げているわけじゃないわ。
透といると、自然と拡がってしまうだけよ。見る物の範囲も、考え方の多様さも、人との交流範囲も。
「興味ないなんて言って、怖いだけなんだろう? 新しい世界や、知らない気持ちに」
見透かしてるよ。兄様のメガネの奥が、そう言ってる気がした。
ああ……また、なのね。
私は自分の足で立っているようで、本当は兄様に支えられている。
「放っておけばいいのに」
思わず口から出た言葉に顔を背けたくなったけれど、兄様が苦笑する方が早かった。



