「……いつまで笑ってるのかしら」
大きな手で口をおさえ、肩を震わせてる兄様に眉を寄せる。
「いや……ごめん。我が妹ながら、不器用に育ったなぁと思って……ふふっ…」
「不器用って何よ」
兄様は微かに震える手でコーヒーを飲むと、落ち着いたらしく、やっと私を見た。
「世の中で言う仲直りを、すればいいのになぁ……と思って」
「仲直り?」
「そう。つまり透とは喧嘩したみたいなものなんだろう?」
喧嘩って……よく分からないわ。
「悪いことをしたと思ってるのなら、透に謝ればいいんだよ」
「私、透に謝ったことないわよ」
「…………」
……また笑ってるわね?
兄様は不自然に壁に飾られた絵画へ視線を逸らして唇をぎゅっと結んでいるけど、プルプルと口元が震えている。
気持ち悪いわね。
「まあとにかく」
あれだけ笑っといて何が『とにかく』よ。
「仲直りをしなさい」
「……」
「奈々はもう大人になったんだから、出来るだろう?」
「高1で16歳の女子高生の、どこが大人なのよ」
コーヒーカップを持ち、揺れる水面を見つめる。
「十分大人じゃないか。透以外にも大事な人たちが出来たしね」
「……?」
兄様の言葉に疑問を持って顔を上げると、妖艶な微笑みが見えた。



