「透は元気? 仲良くしてる?」
黒いルームドレスに着替えてリビングへ入るなり、兄様は私に煎れ立てのコーヒーを差し出ながら問う。
「傷つけちゃったわ」
コーヒーを受け取り一口飲んでからそう言うと、兄様は「なるほど」と呟いた。
「だから浮かない顔してたのか。相変わらず奈々の中心は、透なんだね」
ワインレッドのソファーに深く座り、私を見つめる兄様。
何もセットしてない黒髪、細身な体を包む淡い黒のスーツ。端正な顔だちに、縁のないメガネがよく似合う。
落ち着いていて、ふと見せる笑顔が印象に残る人。
私の中心は透……ねぇ……。
「……明日からはそうじゃなくなるかもしれないけどね」
きっともう透は、笑ってくれないかもしれないわ。
「奈々は人付き合いが苦手だからね。また試すようなことをしたんだろう?」
「試すなんて……人聞き悪いわ」
「ははっ。そうだね。じゃあ……離れてほしくないのに、わざと離れてしまうようなことを言ったんだろう?」
「……」
「奈々がそんなことするのは、なぜ? 信じられないから?」
「……信じているけど、不安になるだけよ」
不安だから、傷付けてしまう……傷付けたくなる。
兄様が言ったとおり。
傷つけても透はまた私のそばに戻ってきてくれるのか、試してる。
大事にしたいのに、大事に出来ない。



